現状と危険性
ほとんどの水族館は、佐伯の理論に基づき造られている。飼育水1トン当たり魚体重3kg~7kgの計算で、濾過装置の支持材(玉砂利)を含めず、10倍~30倍の濾過材(珪砂)を使用している。そして、24時間当たり36ターンの循環を行う。濾過速度は、緩速濾過は4~5m/dを標準として、急速濾過は120~150m/dを基準とする。
基本的に濾過材を敷くと残餌・糞などは濾過細菌による硝化作用によって、アンモニア~亜硝酸~硝酸と比較的無害な硝酸に変わる。しかし、巨大水槽に濾過材を敷いてしまうと、40㎝程の濾過材を洗浄することはとても困難な作業となる。
多くの水族館の魚類大水槽ではライフサポートシステムを採用しており、水槽内に濾過材を敷いてしまっている。ダイバーが毎日潜り清掃作業を行っても、濾過材の間に残餌・糞が段階的に増加してしまう。サメ・エイの硝酸の毒性値は、0.95ppmと思われます。前述したように作業の困難さにより、硝酸が200ppmを超えてしまう異常値まで上がってしまうこともある。そうなるとジンベイザメも硝酸中毒でエラの鰓耙が白くなり死んでしまう。
その上、ダイバーが毎日潜り清掃作業を行うことは、メンテナンス費用の増加に直結する。
ライフサポートシステムの濾過材の下の配管より、飼育水を噴き出す上昇流と、吸い込む下降流の二つの方式がある。上昇流では、噴き出す水流により濾過材が回転してしまう。河川などで、小石が水流によって岩の隙間に入り込むと大きな岩に丸い穴を形成することがある。これをポットホール現象と言う。
防水シートを3PLYコーティングしてもポットホール現象により、濾過材が防水シートを貫通してしまうと、次はじわじわとコンクリートに海水がしみ込んでいき、やがてコンクリートを支えている鉄筋に達してしまう。海水が、鉄筋に到達すると錆が発生し、鉄筋を膨張させる。鉄筋により支えられている構造物。つまり、水族館は跡形もなく崩れ去る。
もちろん、建物だけでは済まない。巨大水槽の下には200Vの電流で回っているポンプのモーターがあり、海水が接触してしまえばそこにいる作業員は即死。火災の発生も考えられるだろう。大規模な漏水が起きれば、お客様を巻き込む大変な事故に繋がりかねない。
惜しくも閉館した油壷マリンパークには、漏水しても被害を出さぬよう隔壁があった。安全性も高く、水質管理においても素晴らしい水族館でした。関わった方たちのご尽力が目に見えるかのようで、敬服の至りです。
残念ながら、漏水対策の隔壁が無い水族館も存在し、事故発生時に人命を損なう危険性を孕みながら営業を続けているのが現状。
下降流であればその危険性は無い。デメリットは均等に水流を吸い込むことが困難であること。下降流は均等に水流を吸い込むことが苦手な為、濾過の道筋が決まってきてしまう。下降流を採用している水族館で、ダイバーが濾過材をMD型サイクロン洗浄機で清掃作業をしているのは、マッドボールを形成させないためである。
マッドボールが出来てしまうと、濾過効率が悪くなる為、飼育水が白く濁って見えてしまうようになる。
対応のなされている水族館では、多数の急速濾過と新鮮海水の注入で、水質が良く、見た目にも美しい。上昇流では濾過材の下から残餌・糞が溜まり、取り除くには大変な労力を要する。下降流では、濾過材の表面から残餌や糞が溜まっていく。上昇流と比べて取り除くことが容易。
新しい仕組み
巨大水槽で、アクリル板・濾過槽を水槽内部に収容することにより、漏水修理の際に蓄養水槽に移動させないで済む。また一つのポンプで飼育水をバルブで逆流出来る弊社独自のシステム(特許出願中)を開発。上述の多くの懸念点を解決することが出来、結果的に大幅なコストカットが可能となります。ライフサポートシステムに変わる、次なる標準であると考えています。
- 巨大水槽の施工の際に、3PLYの防水シートが完全に乾かないうちに次のシートを敷いて しまうとピンホールが出来てしまい何枚シートを敷いても効果が無くなってしまう。さらにその上からラバラック系のペイントを塗装するので、防水機能が効かなくなってしまう。これは大変危険な状態である。作業上・工事上の問題点であるため、飼育員・水族館に携わる方は覚えておかなくてはならない。