③ 大型水槽の飼育海水はどのように搬入されるか

飼育展示されている魚類は主に熱帯性の海水魚で、大変水質に敏感な魚類も飼育展示されている。その為、良質な天然海水を伊豆大島沖から海水運搬船によって運ばれる。

搬入される海水は到着時水質チェックされ、基準より値が良好だった場合のみ搬入される。

搬入される海水量は、ひと月に一回約500tほど。

新鮮海水搬入の流れ

  1. 海水運搬船が桟橋に着岸、水温・PHの測定。
  2. 水質検査室で細かくチェック。
  3. 水中ポンプにより海水を貯水槽まで搬入。
  4. 搬入された海水の量をチェック。

購入海水の水質基準

溶存酸素(DO)         =                     2.5ppm

塩 素 量            =                    18~20%

比   重   (SG15℃)  =          25.0前後(1,025)

P   H            =                     8.0~8.5

化学的酸素要求量  (COD)  =                 0.3ppm以下

アンモニア態窒素(NH4-N)  =               0.005ppm以下

硝酸態窒素   (NO3-N)  =               0.005ppm以下

亜硝酸態窒素  (NO2-N)  =               0.010ppm以下

② 大型水槽の濾過基準はどのように決定されたか

大型水槽の濾過基準はどのように決定されたか

佐伯の理論から考えると1t当たり5kgの魚類を収容した場合、必要な濾過材は魚体重5キロに対し30倍の濾過材重量が必要となる。

すなわち必要な濾過材重量は、

5×30=150kg

が必要となります。

大型水槽の水量が1,048tありますので、1t当たり5kgの魚類を飼育展示する場合の必要な濾過材重量は

1,048×150=157,200kg

157.2tの濾過材が必要になる。

使用する濾過材の大きさを0.6㎜の珪砂を使用したとすると見掛比重が1.6なので

98.2㎥となる。

実際の大型水槽の濾過基準

(1)原単位

a 魚密:5kg/㎥

b 砂の硝化能力:0.03/kg・day (珪砂0.6mの場合)

c 魚類のアンモニア排泄量:0.5㎏/㎏・day

d 砂の見掛比重:1,600㎏/㎥  (珪砂0.6mの場合)

e 水槽水量:1,048㎥

(2)アンモニア排泄(生成)量 Vo(残餌は含まれない)

 Vo=a・c・e=5×0.5×1048=2,620/day…1.4…3,670

      =3,670g/day

現施設のアンモニア硝化能力

I:圧力式濾過器 7.8㎥/1基×5基=39㎥

     39㎥×1,600㎏/㎥×0.03g/㎏・day=1,872g/day

II:接触濾過槽  50㎥

     50㎥×(200/700)×1,600㎏/㎥×0.03g/㎏・day

     =686g/day

III:バイオフィルター(座面濾過)  46㎥

     46㎥×1,600㎏/㎥×0.03g/㎏・day=2,208g/day

以上、3濾過器の硝化能力の合計は4,766g/dayとなる。

さらに、佐伯の理論に当てはめると必要な濾過材の必要容量は、前述のとおり98.2㎥なので、

I+II+III=39+50+46=135㎥

となり、佐伯の理論からも濾過材容量は十分と判断できる。

濾過材以外の基準

水槽循環量:24turn/day

濾過速度:LV=27m

オゾン:1時間当たり1㎥を添加

オゾンはアンモニア態窒素を亜硝酸及び硝酸態窒素に酸化する。また、原水の色度を除去する働きと殺菌能力を有する。オゾンは、浄化及び殺菌において優れた特性を有しているが、オゾンを高濃度で処理し過ぎ残留させると、飼育魚の影響が懸念される。

① 水槽の濾過原理について

水槽は極端な閉鎖環境であり、管理が悪いと直ぐに水質悪化する。

餌や魚から排泄されるタンパク質・尿・尿素などは、バクテリアによってアンモニア態窒素に分解され、さらに亜硝酸態窒素~硝酸態窒素へと酸化されていく。魚類にとってアンモニア態窒素(アンモニアは血液中のヘモグロビンが酸素と結合し、微量でも炭酸ガスを放出することを妨害し、0.3mg/lで著しい障害を与えると報告されている。)と亜硝酸態窒素は、魚にとって毒性が強い為、出来るだけ速やかに硝酸態窒素まで酸化させることが大切。

アンモニア態窒素は、ニトロモナス属のバクテリアによって亜硝酸態窒素に、亜硝酸態窒素は、ニトロバクター属のバクテリアによって硝酸態窒素に変えられる。

一部の、硝酸態窒素は脱窒菌により分解され、大気に放出され水の濾過が完了する。

ここで濾過とは浮遊性のゴミの除去と毒性の強いアンモニア態窒素を上記のバクテリアを利用し、比較的無害な硝酸態窒素にすることをいう。上記のバクテリアは珪砂などの基物の表面で大量に酸素を使ってアンモニアを亜硝酸や硝酸に変化させる。

 濾過槽に珪砂を入れて汚れた飼育水を通過させ、飼育水を魚類の飼育に適した水質にすること。

では、濾過に適した珪砂とは、どのようなものなのか。

通常ろ材として使用している有効径

 一般的な範囲    :0.3~0.7㎜

 水道施設基準の範囲 :0.45~0.7㎜

 最も多く使われる値 :0.6㎜

濾層の厚さ

 一般的な範囲    :280~900㎜

 水道施設基準の範囲 :600~700㎜

 最も多く使われる値 :600㎜

濾過材の必要量

Ⅰ:佐伯の理論

単位重量当たりの砂アンモニア酸化量を得ているわけで、給餌に基づく残餌や排泄物量を求めて計算すると飼育魚類の約30倍の濾過砂が必要とされる。

Ⅱ:その他(与える1日の餌の量から濾過材の必要量を算出)

色々な濾過方法

巨大水槽を安全に運用する方法

現状と危険性

巨大水槽を安全に運用する方法

ほとんどの水族館は、佐伯の理論に基づき造られている。飼育水1トン当たり魚体重3kg~7kgの計算で、濾過装置の支持材(玉砂利)を含めず、10倍~30倍の濾過材(珪砂)を使用している。そして、24時間当たり36ターンの循環を行う。濾過速度は、緩速濾過は4~5m/dを標準として、急速濾過は120~150m/dを基準とする。

基本的に濾過材を敷くと残餌・糞などは濾過細菌による硝化作用によって、アンモニア~亜硝酸~硝酸と比較的無害な硝酸に変わる。しかし、巨大水槽に濾過材を敷いてしまうと、40㎝程の濾過材を洗浄することはとても困難な作業となる。

多くの水族館の魚類大水槽ではライフサポートシステムを採用しており、水槽内に濾過材を敷いてしまっている。ダイバーが毎日潜り清掃作業を行っても、濾過材の間に残餌・糞が段階的に増加してしまう。サメ・エイの硝酸の毒性値は、0.95ppmと思われます。前述したように作業の困難さにより、硝酸が200ppmを超えてしまう異常値まで上がってしまうこともある。そうなるとジンベイザメも硝酸中毒でエラの鰓耙が白くなり死んでしまう。

その上、ダイバーが毎日潜り清掃作業を行うことは、メンテナンス費用の増加に直結する。

ライフサポートシステムの濾過材の下の配管より、飼育水を噴き出す上昇流と、吸い込む下降流の二つの方式がある。上昇流では、噴き出す水流により濾過材が回転してしまう。河川などで、小石が水流によって岩の隙間に入り込むと大きな岩に丸い穴を形成することがある。これをポットホール現象と言う。

防水シートを3PLYコーティングしてもポットホール現象により、濾過材が防水シートを貫通してしまうと、次はじわじわとコンクリートに海水がしみ込んでいき、やがてコンクリートを支えている鉄筋に達してしまう。海水が、鉄筋に到達すると錆が発生し、鉄筋を膨張させる。鉄筋により支えられている構造物。つまり、水族館は跡形もなく崩れ去る。

もちろん、建物だけでは済まない。巨大水槽の下には200Vの電流で回っているポンプのモーターがあり、海水が接触してしまえばそこにいる作業員は即死。火災の発生も考えられるだろう。大規模な漏水が起きれば、お客様を巻き込む大変な事故に繋がりかねない。

惜しくも閉館した油壷マリンパークには、漏水しても被害を出さぬよう隔壁があった。安全性も高く、水質管理においても素晴らしい水族館でした。関わった方たちのご尽力が目に見えるかのようで、敬服の至りです。

残念ながら、漏水対策の隔壁が無い水族館も存在し、事故発生時に人命を損なう危険性を孕みながら営業を続けているのが現状。

下降流であればその危険性は無い。デメリットは均等に水流を吸い込むことが困難であること。下降流は均等に水流を吸い込むことが苦手な為、濾過の道筋が決まってきてしまう。下降流を採用している水族館で、ダイバーが濾過材をMD型サイクロン洗浄機で清掃作業をしているのは、マッドボールを形成させないためである。

マッドボールが出来てしまうと、濾過効率が悪くなる為、飼育水が白く濁って見えてしまうようになる。

対応のなされている水族館では、多数の急速濾過と新鮮海水の注入で、水質が良く、見た目にも美しい。上昇流では濾過材の下から残餌・糞が溜まり、取り除くには大変な労力を要する。下降流では、濾過材の表面から残餌や糞が溜まっていく。上昇流と比べて取り除くことが容易。

新しい仕組み

巨大水槽で、アクリル板・濾過槽を水槽内部に収容することにより、漏水修理の際に蓄養水槽に移動させないで済む。また一つのポンプで飼育水をバルブで逆流出来る弊社独自のシステム(特許出願中)を開発。上述の多くの懸念点を解決することが出来、結果的に大幅なコストカットが可能となります。ライフサポートシステムに変わる、次なる標準であると考えています。

  • 巨大水槽の施工の際に、3PLYの防水シートが完全に乾かないうちに次のシートを敷いて しまうとピンホールが出来てしまい何枚シートを敷いても効果が無くなってしまう。さらにその上からラバラック系のペイントを塗装するので、防水機能が効かなくなってしまう。これは大変危険な状態である。作業上・工事上の問題点であるため、飼育員・水族館に携わる方は覚えておかなくてはならない。

世界初、生きたオロシザメの捕獲

 この時、オロシザメの捕獲は世界で二回目。一回目はおそらく生体ではなく、生きたオロシザメの捕獲は世界で初めてのこと。江の島沖で捕獲。

 タカアシガニを展示している水槽しか適水温のものが無かった。オロシザメ用に新たに作ろうと思うが間に合わない。仕方なくタカアシガニ水槽に放した。

オロシザメは配管の噴き出し口に逆らって深海に帰ろうと頭を下げ泳ぐ。すぐにフラッシュ撮影禁止の張り紙を用意する。サメを失明させてはいけない。

翌日、たくさんの新聞社やテレビ局が来て、生きたオロシザメの写真を撮影した。新聞は全国紙にも掲載された。

共同通信社

水槽の前でサメの解説をしていると、一人の男性が近寄ってきてサメのことをいろいろと質問してきた。一般のお客様ではない見識。北海道大学の仲谷一宏先生であることがわかった。

仲谷先生は生きたオロシザメが見たいとわざわざ北海道から足を運んでくださった。直接お会いしたのはこれが初めて。積もる話もあり家に招いた。先生もお酒が好きで、呑みながらサメの話をする。

よく覚えているのは、「世界で二番目に大きいウバザメとイワシを泳がせてはどうか?」と聞いたこと。「種が違い、ジンベイザメのようにオキアミを吸い込むことが出来ないので飼育が出来ない。」と仰った。

他にもいくらか質問を投げかけたが、間髪入れず的確な答えが矢のように飛んでくる。厖大な知識量を感じざるを得なかった。

数日後、仲谷先生からサメの文献を寄贈された。私にとって何よりの宝物となった。

Biology of the Megamouth Shark
Biology of the Megamouth Shark